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経営におけるデザイン活用①

「デザイン」という言葉を聞くと、製品の審美性を高めることのみが目的であるというイメージを持たれているのではないでしょうか。
デザインに対する誤解を解くとともに、経営におけるデザイン活用について述べます。
1回目はデザインとは何かということをテーマにしたいと思います。

デザインとは何か

言葉の意味

国語辞典にてデザインという語を引くと、概ね「意匠」「設計」「計画」などと書かれていますが、概ね意匠という意味を思い浮かべるのが一般的であろうかと思います。
本記事においても「デザイン」という単語は意匠という意味でのみ使用し、それ以外の意味は持たないこととします。

意匠とは、意匠法第二条では以下のように定義されています。

この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。第八条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。

意匠法

これに倣い、本記事でも意匠とは形状・模様・色彩、及びそれらの結合(組み合わせ)とします。

デザインとは

Krippendorff(1989)はその著作のタイトルで「デザインとは(物の)意味を与えることである(Design Is Making Sense (Of Things))」(Krippendorff,1989)と述べています。

例えば、建物の非常口の扉の上部には、非常口であることを示す誘導灯があります。

誘導灯は、暗いところを明るくするために存在しているものではありません。
火災や災害が起こって、顧客を非常口へ誘導する必要が生じた際に「ここに非難するための非常口がある」ということを示すために存在しています。
色が緑色なのは炎や煙の中でも視認しやすいからだそうですが、緑色をベースにピクトグラムがデザインされていることで、非常口の案内という意味を持たせていることが分かるかと思います。

デザインとは単に審美性を高めるためだけのものではないことはお分かりいただけるかと思います。

アートとの違い

誤解されがちなこととして、デザインとアートを混同するというものがあるでしょう。
原(2003)はアートとデザインの違いについて以下のように述べています。

 アートは個人が社会に向き合う個人的な意思表示であって、その発生の根源はとても個的なものだ。だからアーティスト本人にしかその発生の根源を把握することができない。(中略)
 一方、デザインは基本的に個人の自己表出が動機ではなく、その発端は会社の側にある。社会の多くの人々と共有できる問題を発見し、それを解決していくプロセスにデザインの本質がある。問題の発端を社会の側に置いているのでその計画やプロセスは誰もがそれを理解し、デザイナーと同じ視点でそれを辿ることができる。

デザインのデザイン

アートとは、個人的から外部に対するな意思表示、デザインは社会の多くの人と共有できる問題を解決するプロセスであるとしています。
基点から目的に至るまで、デザインとアートは明らかに異なるものであることが分かります。

デザインの効果

デザインの構成要素である形状、模様、色彩及びそれらの結合が、どのような効果を及ぼすことが考えられるでしょうか。

形状による効果

製品の形状は製品の性能・機能に影響を与えます。
例えば、スポーツカーのような流線形の自動車と比較して、バスやトラックのような進行方向に対して垂直に切り立った形状の自動車の方が前方投影面積は大きくなります。

もし、形状以外の条件が全く同じだったとしたら、前方投影面積が大きい自動車の方が前に進むためのエネルギー効率が悪く、より多くのエネルギーを必要とすることは容易に想像がつくでしょう。

また、形状は使用者にとっての分かりやすさや使いやすさに影響を与える。通常のガラス瓶は断面が円形になっているが、形状を変えたことで握力が弱い人でも開けやすくなったという事例がある。

芝浦工業大学の橋田規子教授は柏洋硝子(東京・港、七島徹社長)と共同で、高齢者や子どもでもふたを開けやすい新しい形状のガラス瓶を開発しました
平行四辺形のデザインにすることで、握ったときに力が入りやすくなり、握力が弱い人でも開けやすくなりました。

形状を変えたことで、今まで瓶を開けることができなかったユーザーの購買に繋がることが考えられます。
また、握力が弱い人でも開けやすい瓶を開発した企業として、企業のイメージに関してもプラスの効果が得られることも期待できるでしょう。

このように、デザインによってターゲットの拡大とブランドイメージの向上も期待できると言えます。

模様による効果

製品の形状が全く同じであったとしても、模様によって製品の印象が変わるのは容易にイメージできるでしょう。
例えば、白地に黒色のボーダー柄の服と、同じく白地に黒色の水玉模様の服とでは、使用している色は同じであっても、見る人にとっての印象は異なります。

製品の形、色は全く同じでも、対象に合わせた模様を施すことで、より対象としている顧客に適した製品にすることも可能です。
例えば、全く形状が同じスマートフォンケースであったとしても、若い女性に好かれる模様、年配の男性に好かれる模様を施すことで、ターゲットとなるセグメントに対して商品としての訴求力が高まることは容易に想像がつくのではないでしょうか。

色彩による効果

千々岩(2001)は、色は聴覚や嗅覚、味覚といった他の五感と共感覚的な関係があり、連想や象徴といった高次の心的作用とつながりを持っていると述べています。

それぞれの色に対するイメージは国や文化圏によって違いはあるものの、赤は「情熱」「活動的」「危険」、青は「冷静」「知的」「憂鬱」、緑は「自然」「安らぎ」「未熟」といった、見る人に対して一定のイメージを付与します。

色の意味を活用している例として金融機関のコーポレートカラーが挙げられます。
金融機関はサービス内容での差別化が難しいため、三菱UFJ銀行は赤(活力と情熱) 、三井住友銀行はフレッシュグリーン(若々しさ、知性、やさしさ)・トラッドグリーン(伝統、信頼、安定感) 、みずほ銀行がコズミックブルー(信頼、誠実、ワールドスケール、クオリティ)・ホライズンレッド(リレーションシップ、ヒューマニティ、情熱) といったように、それぞれコーポレートカラーを定め、ブランディングによる差別化を図っています。

結合による効果

文字と色のように2つの刺激を提示した際に、それらのイメージに不一致があった場合、整合性が取れていた場合と比較して反応が遅延する現象が起こることがStroop(1935)によって述べられています。
これをストループ効果と言いますが、実際のイメージを見てください。

Aは赤色で書かれた「赤」という文字と青色で書かれた「青」という文字、Bは青色で書かれた「赤」という文字と赤色で書かれた「青」という文字です。
AとBを比較した際に、Bは文字の持つ意味とその色がそれぞれ異なっているために、色から得られる情報と文字から得られる情報が干渉し合い、違和を感じることが分かると思います。

実際の製品を例にすると、市販されているレトルトカレーは同じシリーズで甘口、中辛、辛口など、辛さの段階が存在しているものがあります。
そういった場合、甘口はパッケージが黄、中辛はオレンジ、辛口は赤といった、段階的に辛みが強くなるイメージが伝わるような色使いをしているはずです。
使用している色が辛さのイメージと不一致だった場合、ストループ効果により反応の遅れやその違和感から製品を選択される機会を失するということも十分に考えられるからです。

言いかえるとイメージを一致させることで違和感を減じ、製品の選択の機会の損失を防いだり、手に取る動機を高めたりする効果も期待できると言えるでしょう。